皆さんこんにちは、鹿児島の税理士の引地です。
今回は、個人事業の事業承継はどうすればいいのか、という疑問について、主に所得税の取り扱いをからめて解説していきたいと思います。(相続による事業承継ではなく、生前中の事業承継を想定にしています。また下記解説のケースですと消費税の取り扱いについても同様です)
例えば、歯科医院などで、院長(先代)が息子(後継者)に代替わりした、というケースがよくありそうですね
届出関係
個人事業の場合、1月1日~12月31日の期間に生じた所得について確定申告をしていくことになるのですが、期の途中で事業承継した場合にはどうなるのでしょうか。
結論として、1月1日~事業承継日までを先代の事業所得として計算し、事業承継日の翌日から後継者の事業所得として計算することになります。(ただし、あくまで所得税の確定申告は1月1日~12月31日に生じたすべての所得を申告することになるため注意が必要です)
そのため、先代は事業承継日を「廃業日」として「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出する必要があり、後継者は事業承継日の翌日を「開業日」として「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出する必要があります。

そのほか、開業、廃業に当たって、税務上、労務上の届出が必要になりますので、詳細はお調べください
棚卸資産の取り扱い
棚卸資産(商品などの在庫)が後継者に移転しますので、以下の3つの分類の取り扱いに分かれます。
①時価で譲渡する場合(後継者が時価で買い取る)
・・・税金計算上、特に問題ありません。通常の第三者間取引と同じように経理します。
②時価より安く譲渡する場合(後継者が時価より安く買い取る)
・・・時価の70%よりも安く売った場合には、先代は、時価の70%で売上計上する必要があり、後継者は時価の70%で仕入計上する必要があります。
③無償で移転する場合(後継者が無償で棚卸資産を貰う)
・・・先代は、時価の70%と取得価額を比較して、いずれか大きい額を売上計上する必要があり、後継者はも同様に、時価の70%と取得価額を比較して、いずれか大きい額を仕入計上する必要があります。

なお、棚卸資産を後継者に移転しなかった場合には、自家消費となりますので、時価の70%と取得価額を比較して、いずれか大きい額を先代の収入に計上する必要があります
事業用資産の取り扱い
事業用資産(例えば、クリニックの医療機器)については、下記の5つのいずれかの取り扱いとなります。
①時価で譲渡する場合(後継者が時価で買い取る。後継者が融資を受けて買い取ることが考えられます)
・・・税金計算上、特に問題ありません。通常の第三者間取引と同じです。
②時価より安く譲渡する場合(後継者が時価より安く買い取る)
・・・時価の二分の一より安く譲渡する場合には、「低額譲渡」となり、税金計算上、特殊な取り扱いになります。時価の二分の一以上で譲渡する場合は、税金計算上、特に問題ありません。低額譲渡の場合、以下(イ)、(ロ)に分かれます。
(イ)低額譲渡により譲渡損(赤字)が生じる場合
・・・先代の所得税の計算上、譲渡損は所得計算上ないものとされます。後継者の所得税の計算上、先代のその資産の取得時期、取得価額、帳簿価額(減価償却累計額)をそのまま引き継ぎます。
(ロ)低額譲渡により譲渡益(黒字)が生じる場合
・・・税金計算上、特に問題ありません。通常の第三者間取引と同じです。
③贈与する場合(後継者に資産を贈与する)
・・・所得税の問題は生じません。贈与税の問題になります。後継者は贈与税の基礎控除額を超える財産を受け取った場合は、贈与税の申告が必要になるケースがあります。なお、後継者の所得税の計算上、先代のその資産の取得時期、取得価額、帳簿価額(減価償却累計額)をそのまま引き継ぎます。
④有償で賃貸する場合(後継者に資産を貸して、賃借料を先代が受け取る)
・・・先代と後継者の関係が「生計を一にするのか」「生計を一にしないのか」で取り扱いが変わってきます。「生計を一にする」とは、同じ屋根の下で一緒に生活していたり、生活費や病院代の送金のやり取りがある場合などを指します。その世帯の経済単位が同一ともいえます。以下(イ)、(ロ)に分かれます。
(イ)生計を一にする場合
・・・先代は賃貸料を不動産所得の収入金額には計上できません。また後継者は賃貸料を事業所得の経費として計上することができません。ただし、その先代の資産の減価償却費や固定資産税は後継者の事業所得の必要経費に計上することができます(賃貸料の増減によって、恣意的な所得の分散が可能になってしまうため、個人単位課税の例外として、ここは世帯単位課税として考えるため)
(ロ)生計を一にしない場合
・・・税金計算上、特に問題ありません。通常の第三者間取引と同じです。
⑤無償で賃貸する場合(後継者に資産を貸すが、賃借料のやり取りはしない)
・・・無償て賃貸することを「使用貸借契約」といいますが、個人間(先代、後継者)の使用貸借については、税金計算上、特に問題ありません。(個人は営利行為を目的としない行為も通常ありえることから、特に税金計算上問題は生じません)ただ、生計を一にする場合は、その先代の資産の減価償却費や固定資産税は後継者の事業所得の必要経費に計上することができます。

③贈与する場合は、相続時精算課税による贈与を選択適用することも考えられます。
相続時精算課税を選択すると、2500万円の特別控除に加え、毎年110万円の基礎控除がありますので、贈与税の負担を抑えることができます。
ただし、相続税の計算において、持ち戻して財産に取り込むため、慎重な判断が必要です。

一般的には、贈与か、使用貸借か、になると思いますが、
使用貸借にする場合には、所有権自体は先代のままですので、
先代が亡くなったときに、遺産分割で揉めた場合は、後継者に資産が承継されない可能性もありますので、ケースバイケースだと思います
余談

税金計算上の取り扱いもありますが、まずは届出関係を忘れないようにしましょう
先代は廃業届、後継者は開業届が必要になりますので、その点留意しましょう


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